川沿いの小道に似合うもの

 

 

 鶴生田川にかかる「ふれあい橋」のうえからは、川沿いの小道を行き来する人の姿が見えます。

 ぽかぽか暖かい日には、保母さんが6人乗りの大きなベビーカーに赤ちゃんを乗せてゆっくりこの道を歩いていきます。

よちよち歩きができようになったばかりくらいの赤ちゃんが6人、ベビーカーにちょこんと座っているようすは、かわいいという言葉がぴったりです。

 

「今日はなんだろう」とあたりの風景に目をきょろきょろさせる子もいれば、ぽかぽか陽気と心地よい振動に誘われて眠ってしまった子もいます。進むたびにベビーカーからキュッ、キュッと音がして、それがのんびりした雰囲気をいっそうのものにしています。

 

 その後ろからは、高校生のカップルが歩いてきました。

 歩くスピードはベビーカーとたいして変わりません。それでもだらだらという感じではなくただ、ゆっくりと歩を進め、二人の時間を楽しんでいるように見えます。最近はぴったりと寄りそって歩くカップルが多いのに、この二人の間は10センチくらい開き、ときどき肘がぶつかったりするのですが、するとはっとしたように離れ、また正しく10センチだけ離れてベビーカーの後ろを歩いていきます。

 

 そんな二人にはおかまいなしに、小学生の男の子たちが、猛スピードで自転車を走らせます。ギャーギャーと歓声を上げながら、川の流れよりも早く、城沼のほうへすっとんで行きました。

 川沿いの小道にいちばん似合う乗り物はやっぱり自転車なのです。自転車なら、川の流れと同じくらいのスピードが出せるので、川に船を浮かべた時に感じるのと同じくらいの空気の抵抗を肌に感じることができて、それが何ともいえず心地よいのです。

 そんなことを考えていると、いつのまにか、さっきのカップルの後ろ姿が目の前にありました。きっと城沼まで行って戻ってきたのでしょう。二人の距離はさっきと同じく10センチだけ離れ、話はしていないのに、ときどき顔を見合わせて笑い、また下を向いたままゆっくりと駅のほうへ歩いて行きました。

 川沿いの小道には、乳母車と自転車、そしてつきあいはじめたばかりのカップルが似合うものなんだと思ったのです。

スクリプト・橋本淳司(FMグンマ『四季の散歩道』2001.12.13放送)


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