とっておきの散歩コース

 

 

館林駅を降りると、目の前に整然とした駅前通りが伸びています。 つつじが岡公園や城沼方面へ向う人のほとんどが整備されたこの通りを歩いて行くのですが私は違います。 ロータリーを出てすぐ右の路地を進むと、そこには鶴生田川が流れています。鶴生田川の流れといっしょに城沼のほうへ歩いてゆくのが気にいっていて、私と2歳になる娘のとっておきの散歩コースになっています。

 

 


 鶴生田川は館林市の中心部を東西につらぬくように流れます。 城沼に流れ込む付近には1キロ以上も続く桜並木があって、春には両岸300本もの桜が見事なうす桃色の景色をつくりあげるのですが、さすがにいまの季節に花はなく、コンクリートで固められた護岸が水面に陰を落とし、どこか肌寒い印象を与えます。

 


 先日、小春日和のなかをいつものように二人でブラブラしていると、鈍色の水面に、どこから舞い降りたのか銀杏の葉がくるくるひらひらと流れていきました。茶色くくすんだ葉っぱにまじって一際輝く黄金色を見つけた娘が、 「お父さん、あの葉っぱ、おいかけて」 と、せがみます。私はしかたなく彼女を抱きかかえたまま黄金色を追って足を速めました。


 川の勾配はゆるやかで、日頃、「ほとんど流れていない」などと言われる鶴生田川ですが、いざ流れを追いかけてみると意外に早いのです。13キロのハンデを背負った私が水面を軽やかに滑走する葉っぱと勝負するのは相当にきつく、五号橋を前にぱたりと止まってしまいました。

 

 


 娘は、おもちゃを欲しがるように、流れ去った銀杏の葉を指さし「あーあー」と泣きそうな声を出しますが、こちらの体力はもはや限界で、ハーハーと息を切らすばかりです。
  都合よく、似たような銀杏の葉が流れてきました。 私は絶好のチャンスと、「あ、あの葉っぱだよ。いつの間にか追いこしちゃったんだね」とその場しのぎの嘘をつきました。娘は、「追いこしちゃったの?」とオウムのように聞き返してきます。多少悪びれながら、「たぶん、そうだよ」と曖昧に答えると、「なんだか形が違う」ときびしく食い下がります。
 そのとき自転車に乗った親子連れや子供たちが次々に横を通り過ぎてゆきました。やっぱり川辺には自転車がよく似合います。私は息を切らしながら、「こんどから自転車でこなくては」と思うのでした。

 

スクリプト・橋本淳司(FMグンマ『四季の散歩道』2001.12.6放送)

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